料亭の建築 11 玄関

これまでの嵯峨野は全館が土間で繋がり、各座敷で靴を脱いでいた。
中庭を囲んで土間廊下が巡っており、関となるものを感じない気楽さがあった。
熟慮の末、このたびは入口に玄関を設け、ここで靴を脱いで上がる形にした。
新生嵯峨野としての、心意気を示そうためでもある。

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                <玄関から取次を見る>

料亭というと、誰でも敷居の高さを思うだろう。
特に老舗であればなおさらのこと、因習や格式に見下げられるようで、どうしても近寄りがたさを感じてしまう。これはもちろん、私を含めた客側にも要因があって、床の軸や器をみる見識、礼儀作法といった身だしなみ、座を盛り立てる会話など、男の価値を見透かされるのではとの怖れもあるからだろう。
それでも覗きたいのが花柳界で、男の贔屓目か、魅力は尽きない。
そう、ここは男の学校でもある。
何よりそれは料理だけでなく、さまざまなことを学ばせてくれる。誰でも最初から物知り顔であったわけもなく、どぎまぎしながら座敷に上がり、多かれ少なかれ手ほどきを受けてきた。
若い人もその覚悟で式台を踏んでほしいし、また分け隔てなく迎えてくれる玄関であってほしい。

式台には幅2尺3寸の赤松を据え、取次には畳を敷いた。
ここに座して客を迎えてくれるのだが、本来の玄関より低くしている。脚の弱い人が多い昨今の事情からもやむを得まい。
座して迎える目と、土間に立つ客の目線との差は大きくなるが、式台の幅と玄関の間を広くとることで補っている。
式台上の板欄間は旧嵯峨野の古材を用い、正面には床を設け来る客を迎える。
向かって左に見える洞床には、先代が愛用した包丁が飾られた。
使ってつかって使い倒した道具だから、ひと目で訴えるものがある。研ぎ続けた刀身はもとの半分の長さになり、しっかりした柄も鉛筆ほどの細さになった。道具を大切にと生み続けた仕事が、今の嵯峨野を支えていると思うと感慨深い。
女将若女将たっての願いで、新生嵯峨野の守り刀として掲げられた。

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            <取次から玄関、中庭~椅子席を望む>

玄関右側には中庭を設けている。
この中庭はアプローチからは正面にあたり、道路とは太格子で隔てている。
とかく閉鎖的な料亭のイメージを払拭したいのと、この格子の隙間が世間との窓になることを、透ける緑の美しさに託した。
中庭には竹を植えたが、旧来の作り込んだ庭とせず、素朴な竹林にしたかった。まだ植えたばかりで浮き足立っているが、徐々に馴染むだろう。
中庭を囲むように取次から畳廊下が巡り、竹林を回遊するよう座敷に導かれる。天井までの大きなガラスが、こぼれるような竹葉の緑を玄関に注いでいる。

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                  <中庭を見る>
 
料亭と聞くと、私なども未だに怖じ気づいてしまう。
これは若い人にいうが、素養は経験が補ってくれると、まずは勇気を鼓舞して身を委ねてみてはどうか。座敷に上がった客を、嵯峨野はけして裏切らない。
玄関を送り出されるとき、きっと男の尊厳を自覚することだろう。

  (前田)



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