新五十鈴茶屋計画(10) <職人の仕事 2>

軒先瓦も見ていただこう。
主屋は月の満ち欠けをかたどったものを、目に近い下屋には12ヶ月の花を月ごとに並べている。菓子屋としての季節感をあらわしたいと思ってのことだ。
この瓦、以前仕事を一緒した、淡路の新光窯業 古東(ことう)さんの尽力による。

昔の建物でも、結構こういう細かなところに作る人の思いを感じることがある。
このたびも施主の思い入れから実現した。
文様として月はとにかく、花は簡単な意匠には成りにくい。
デザインした堀井さんも試行錯誤したが、瓦を扱ったことはなかった。
取り敢えず検討も含め、古東さんを現場に呼んだが、開口一番、
「これっ、瓦でやるんですか。勘弁してください」
当然かも知れない。
これだけ細かな文様は、瓦では難しいだろう。

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ただでさえ、見積りでは三種類程度の金額しか見てないのに、いきなり12ヶ月分。しかも月の満ち欠けはあるわ、本瓦の巴もあるわで、数知れない種類が必要となる。
これらひとつひとつに金型を作り、それを土に型取り焼き上げる。瓦といっても所詮焼き物である。思うように焼き上がる保証はない。
細かなところなど飛ぶ恐れもある。
出来悪の返品もあれば、苦しさは増すばかり。
しかも型はこれだけではない、赤福の、茶屋の、月の、まして予算もあるのだ。
(こんな細かい仕事ではなかったはずだ) 
恐らく思ったろう。顔が語っていた。

一応、その場はなだめて持ち帰ってもらったが、苦心惨憺だったようだ。
試作の後、さすがに断ろうと思い定め、淡路から車を飛ばして伊勢に向かった。
しかし、走る車の中で、
「これをいったって、先生は許してくれないだろうなあ・・・・」
古東さん、どうもそう思ったらしい。
現場で待っていた私に知る由もないが、来るなりひと言、
「やってみますわ」
それだけ言い残し、ものの数分で、とんぼ返りに帰っていった。
それで出来たのが、この軒先瓦である。是非とも見て欲しい。
古東さんの、職人としての意地が生んだ作品である。
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大阪土を想わせる赤い壁を、ギャラリーに使った。
ある朝、その壁を 「磨き(漆喰)でやらせて欲しい」
工事途中の現場事務所に、左官の稲葉君が申し出て来た。
「ぜひ、やらせて下さい」 
重ねていう。思い詰めた迫力があった。

「君に任せる」、とはいったものの、高さ9尺、間口3間が2枚、大きな壁である。
これを磨きで、とは普通の左官では考えないだろう。
あとで彼から聞いたが、「反対されたら(仕事を)降りるつもりだった(笑)」と。
自分の仕事を残したい、その一念から出た言葉だったのだろう。
彼が歩いた武者修行中、全国で知り合った左官たちが結集し、彼を支えた。
10人ほどもいたろうか。

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当日は朝から物凄い気合いの入れようで、一気呵成に塗りに掛かった。
互いの仕事を固唾を呑んで見つめる。
若い左官は必死に記録を取る。掛け声が響く、手伝いの檄が飛ぶ。
現場の他の職人衆も来て、黙って見守っている。
壁は乾く間の中で仕事をする。水の引きを見、壁がする息を読んで仕上げてゆく。
塗りだしたら片時も気を抜くことはできない。
頃合いを見計らい、身体全体の力でバランスを取りながら、鏝で研きをかける。
左官仲間も、その一挙手に視線を凝らす(写真)。

緊迫した空気も夕方近くで、ピカピカの壁に仕上がった。
互いに満足そうな顔をしていた。
これが彼ら、左官の矜持なのだろう。

  (前田)

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この記事へのコメント

ta-bo-
2007年10月20日 20:22
「いい仕事してますね~」は、結果からにじみ出るプロセス。
いい仕事をしている人といい仕事ができる雰囲気と場所がある。そこに気持ちや思いや職人魂が宿るんでしょうね。
この仕事には嘘がないのは明らかですね。
これからも応援しています!
前田
2007年10月21日 02:12
ta-bo-さん。コメント有り難うございます。サイコーの褒め言葉を頂きまして重ねて御礼申します。大きな現場でしたが、みんなの心がまとまっていたように思います。これも元請けの高山建設さんのご尽力があってのことでしょう。現場で交わす挨拶は、皆さんとても大きな声で気持ち良いものでした。これからもご覧頂き、ご批評をお願いします!
くろさか
2007年10月21日 09:45
「全身全霊」まさに全てを賭けて、その思いがヒシヒシと伝わってきます。一つの完成された建築作品として以外の何かを感じるのは、やはり造り手のその込めた思いが滲み出ているからなのでしょうね。パソコンの画面で見ているだけでもドキドキ、ワクワクしてくるのですから、"本物って凄い"の一語です。
ta-bo-さんの「この仕事には嘘がない・・・」とても良い表現ですね、その紡ぐ言葉奥深いです。
この仕事には嘘がない・・・本当にそう思います。

前田
2007年10月21日 12:50
いつも有り難うございます。そう仰って頂くと言葉もございません。厚く御礼申します。現場ではなかなか完成が見えずにイライラしていた時期もあって難しさも同時にありました。常時入っている3組の大工、このような仕上げにかかわる各職方、それに施主側の対応と課題の克服など、随分多くの人の気を持たせながらの現場運営でした。しかし、皆さんが誠心誠意やって下さったことがこうした言葉に繋がるんだと思います。今後ともご覧下さい。

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