新五十鈴茶屋計画について(8) <五十鈴茶屋>

五十鈴茶屋、北側の外観である。
上階の格子と虫籠窓(むしこまど)の連なる意匠に、平入りの間口が展開する。
間口11件、奥行き5間、堂々たる佇まいをめざした。
老舗としての風格を滲ませたい、そう思った。

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外観からは軒を出来るだけ低くしたい、これが日本建築の特色だろう。
穏やかに水平に連なるさまは、まさに日本の美しさといっていい。
しかし美しさだけでは建築にはならない。美しさと機能を合致させ、用と美がひとつになった造形をめざさねばならない。
桁髙からすると、赤福棟より五十鈴茶屋は2.5尺も高い。建物が大きいせいもあるが、2階に設けた座敷寸法から積み重ねた結果である。
そこで、北面は“せがい”といって、柱から水平に腕木を出して出桁を受け、それによって軒を深く出す手法を取った。腕木上に軒天井を張り、壁面の高さを抑えることで、軒のラインと壁面の調和を図った。一方、中庭側は差し出された下り梁で出桁を受け、勾配なりに室内空間を大きく確保し、深い軒の出を得る。
実は桁髙の違いを、この軒の出で調整し、軒先の高さを赤福棟と、ほぼかわりなく納めている。
軒先の高さを揃えることで、異なる建物の違和感を抑えた。

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北に面する建物は、とかく暗い印象を与えかねず、計画には慎重になる。
どうしても影が出来るからだ。
以前この場所には高い建物があって、日中影になる空間は、何か薄汚れた寒々しさがあったと記憶している。間違ってもそうあってはならない。
その点でも、高さを抑える効果は計り知れない。
加えて、中庭の存在は効果的であった。
入口の建具を通して中庭の眩しさが目に入ることで、そこに”光”が見て取れる。
影にいながらも、その日溜まりを望見することによって、充分光を感じることができるのだ。漆喰の壁色も、大いに役立ったようだ。

建物に寄り添うように、煙突が起立する。
「作り屋」としての、五十鈴茶屋がもつ矜持である。
ここは形ばかりの”売り屋”ではない。実際に菓子の製造から販売までを、この場所で行う。まさに「作り屋」なのだ。この場所で作った旬のものを、来る人に直かに伝える。
この土地と季節が織りなす菓子ならではの展開であり、工場生産品に気持ちが伝わるかと、卓見してのことであった。

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一転、中庭に面しては開かれた佇まいをとる。
せり上がる段状に調べを合わせて屋根が重なり、外観にリズムを与える。
大工泣かせの小屋組であった。
ここでも虫籠窓が意匠を引き締めるのに役立った。
この虫籠窓、多用したがその場所によって曲線を異ならせている。
意匠上の配慮だが、左官がその気持ちを受け止めて塗ってくれた。

  (前田)






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この記事へのコメント

くろさか
2007年10月02日 18:31
今回も素敵な写真で嬉しく思います。
パソコンの壁紙を五十鈴茶屋でローテーションしているのですが、飽く事なく見入っています。最近は喫茶棟の工事途中(軸組が終わって造作に入る位?)の写真です。本ブログの「大きな梁」の項で紹介されていた写真ですね。この根曲りの桔木に惹かれ、材が採れなかった処は天秤梁でしょうか、そして何と言っても仮筋交いも入っていないのに、この長大スパンの木造建築が自立している姿に惹き付けられるものです。強靭な木組みは木造建築の醍醐味でもありますが、本当に美しいものですね。
外観写真より記事を読みながら想像する木組み、高さが違えてくると想像するのも難しいですが、かりのさんの「屋根フェチ」に対して木組みフェチとでもいうのでしょうか、想像している間は廻りが見えず自分の世界に入っていて、傍から見ると何が嬉しいの?と思われているようです。(笑)
かりの
2007年10月07日 11:51
くろさか様、コメントありがとうございます。先日は八戸の家の写真の撮りまとめをありがとうございました。結果がとても楽しみです!
新五十鈴茶屋、私は上部から全景を写した写真が好きです(まだこちらには載せておりませんが)。屋根フェチとしましては居並ぶ甍の美しさ・勾配が一度に見比べることができるこの写真で自分の世界に入ることが出来ます。
屋根の美しさは、その下にくろさか様の言われる木組みも内包しているところです。複雑かつ美しい木組みを持ちながら、ストイックにそれら全てを覆う。それでいながら、僅かな勾配や重なりで内部の構造をほのかに匂わす。いいですねっ!
こういうのを「マニアック」というらしいです。
くろさか
2007年10月08日 13:15
こちらこそ、ありがとうございました。
ご迷惑ばかりお掛けいたしまして、お恥ずかしい限りでしたが、今は結果を楽しみにしております。
件の写真も写真立てにいれて飾っていますが、本当良い建物ですね(笑)。
その全景写真!是非ご紹介くださいませ。
「暮らし十職マニア」としては聞き逃せません。

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