新五十鈴茶屋計画について(1) <序>

計画から含めて3年近く、このたび新五十鈴茶屋が完成した。
地下を備え、上階に木造建築が連なる。
上屋の木造部分だけでも延べ450坪。
木造建築に携わるものにとって、これだけの木の命を預けられたことに、改めて威儀を正さざるを得ない。自分なりに持てるもの全てを注いで作らせていただいた。

これから何回かに分けて、建物の紹介をさせて頂こうと思う。
何より多くの方の率直なご批評を頂きたい、と願ってのことである。計画時から工事途中、完成までの経緯を含め、設計者として思うままな視点で綴っていこうと思っている。
お付き合い下されば幸いである。

施主は伊勢の老舗、赤福の濱田益嗣会長である。
伊勢で仕事をさせて頂くきっかけとなった方で、10年来仕事を通じてお世話になっている。
おかげ横丁は濱田会長の作、私財を投じて現代に街を作った、希有の人である。
そのおかげで伊勢は蘇った。
現在、年間を通じ400万人がこの地を訪れる。

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会長から頂いた薫陶は数限りないが、人が暮らす”家”を教えてもらったと思っている。
現在の赤福本店は明治に再建されたものだが、幼少の頃、この2階が住まいだったと聞く。毎日餡の焚く臭いで目覚め、学校に通ったらしい。赤い竈(かまど)は赤福の象徴、歴代のおかみさんが毎朝4時に竈に火をくべることから、老舗の朝が始まる。もちろん今も、である。家は仕事と生活の場であった。
その中で、自然と暮らしに知恵が生まれ、習慣が生まれる。
家はそれらを育み、守るものだという。
当時、京都で数寄屋に浸っていた自分にとって、衝撃だったことには間違いない。
このような雑文に記すには畏れ多いが、会長に聞かせていただく”日本”こそ、今の時代にとって大事なものと思う。
改めてきちんとした形でご紹介したいと思っている。
今回のプロジェクトも、会長との二人三脚である。

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                              (五十鈴川から山並みを望む)

計画地は、伊勢市営駐車場に面した一画にある、500坪あまりの土地である。
内宮への参拝客のために設けられた市営駐車場は、数百台が停めらる広大なもので、それでも土日となれば県外客などで満杯となる。脇には志摩地方へ抜ける県道が走っており、以前からここは志摩へ行く人の休憩場所としても使われていると聞く。

計画地の東側は五十鈴川の堤防へとつながる。
内宮御手洗場(みたらし)の五十鈴川の風景は、多くの方も承知のことと思うが、ここに来ると五十鈴川も大きな川幅となる。川を挟んだ対岸には県営アリーナの森が広がり、背後には雄大な山姿が望まれる。
伊勢が育んできた自然を感じられる、貴重な環境だろう。
来訪者はここで車を降り、歩いて内宮参道のおはらい町を経て神宮へと向かう。
いわばここは、”おはらい町”の玄関口といっていい。
また、この五十鈴川の堤防から駐車場にかけては、多くの桜が植わっている。
春はまさに辺りいち面、桜の花の海である。知る人ぞ知る、桜の名所だ。
今年の満開のサクラで、それを強く実感した。

この場所に、五十鈴茶屋が暖簾20年を経て、気を新たに、この土地と季節が織りなす和菓子の世界を展開する試みとして、この度のプロジェクトが目論まれた。中には菓子屋、喫茶、飲食部門が複合し、この地を訪れる人を迎える。

  (前田)

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この記事へのコメント

くろさか
2007年06月23日 14:01
完成の由、私事のように嬉しくまだ拝見しておりませんが、これまでも様々な事を学ばせていただきました、その場に立った時に自分が何を感づるのか今から楽しみでなりません。
 小説などの冒頭にある、その季節や場所柄を伝える叙景文が好きで、普段の生活のリズムの中で気にもしなくなっている情景があることに気付かされる事があります。些細な事ですが住まっている方がそういう些細な情景に感動を憶えるような、そんな建築を提供したいと思っておりますがまだまだ技量不足、思うにまかせません。最新快適装備満載の出来合いの建物を提供する事は果たして数十年数百年後から振り返った時どう見えるか、それに拠って得たものもあるのでしょうが失ったモノも多くその中には本来『人』として大切なモノがあったのではないでしょうか。『新五十鈴茶屋』そんな思いにいたります。
かりの
2007年06月26日 00:01
くろさかさん、いつもコメントありがとうございます。いつもくろさかさんのコメントで、建築について気付かされることが多いです。ありがとうございます。

「人がいて家がある」のと「家があって人がいる」のでは、そこに携わる人の考え方も習慣も違わざるを得ないと思います。
いわゆる「老舗」というのは、既にそこに完成された思考や習慣があるわけです。そしてその店や家は、そういったものを内包したシンボル的存在です。前述の違いは「人が家・店をこれから育てる」のと「店・家が人を育てていく」の違いとも言えるかと思います。が、『新五十鈴茶屋』は、その両方の環境を持っています。これからが楽しみです。
洗い屋 職人
2007年06月26日 03:49
『新五十鈴川茶屋』完成、おめでとうございます。これほどの規模の木造建築を完成させるにあたっては大変な御苦労があったと思いますが今は大きな仕事を成遂げられた充実感でいっぱいなのでは、と勝手に考えうらやましく思っています。私事ですが今までにも伊勢神宮内茶室洗いの仕事で何度かそちらには行ってはいるのですが仕事中は現場と宿の往復だけでゆっくりと伊勢の建物を拝見できていません。8月にそちらに行く予定があるので、ぜひとも拝見させて頂きたいと思っています。完成、おめでとうございます。
かりの
2007年06月26日 22:38
洗い屋様、ありがとうございます。
ただ今前田さんが出張中の為、洗い屋様のコメントの件を電話にてお伝えしましたところ、是非とも8月にはお越しくださいますようにとお伝え下さいとのことでした。8月の来勢の折りにはお会いしてお話をとも言っておりました。よろしくお願いいたします。

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